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野の家 / House in Field

設計 ship architecture / 中村俊哉+藤井愛
基本設計協力 ヤロシュ祥子
構造 坪井宏嗣構造設計事務所
施工 小川共立建設
写真 長谷川健太

設計期間 2017年6月〜2017年12月
施工期間 2018年4月〜
構造   木造
敷地面積 287.20㎡
建築面積 60.84㎡
延床面積 113.29㎡

architect:
ship architecture / toshiya nakamura + ai fuji
Yarosh Shoko
structural design:Hirotsugu Tsuboi Structural Engineering Design Company
constructor:Ogawa Kyoritsu Construction Company
photo:Kenta Hasegawa

design:2017.06〜2017.12
construction:2018.04〜
structure:wooden
site area:287.20㎡
building area:60.84㎡
floor area:113.29㎡
野も住宅地も引き受ける

敷地は10年ほど前に新しく鉄道が開通し、それまで荒野だったところを新しく区画整理し住宅地として整備したまちの一角です。
初めて設計の相談を受けたときはまだ住宅もまばらで多くは野原のままでしたが、設計を進めるあいだにも、辺りにはどんどん住宅が建ちあがり、野原であった誰のものでもないような場所がつぎつぎとフェンスで囲った「敷地」となって私物化していく様を目の当たりにしました。
一般的な郊外新興住宅地の風景が広がってゆく中で、「野」がもつ非所有性や開放性の価値もまた際立つように感じられました。
野と住宅地という矛盾するコンテクストが重なる中で、二者択一ではなく、どちらも引き受けるような住宅を目指しました。



野に住む

この場所で住宅を設計するにあたり、まず2つの指針をたてました。
「木造2階建てのまち並みに参加すること」
「野のもつ開放性・非所有性を感じられること」
矛盾する風景を肯定的に捉え、その中で新たな関係性を見出すことを目指しました。

敷地は地区計画により最低敷地面積が設定されているエリア内にあり、80坪もあるため、建物以外の余白をどう設計するかも同時に考える必要がありました。また道路をはさんだ敷地の東西両隣には野原の公園があり、敷地もシロツメクサやツクシなどの季節の草花が生い茂って野原とひとつづきになっている特徴がありました。
そこで両隣の野との連続感を損なわないように、間口を絞った東西方向に長いボリューム(3,640x13,650mm)を隣家間の中央に配置しました。間口を抑えることで東西の野への視覚的な抜けを良くすることと、内部空間のほとんどが窓辺になり、より野を感じやすい寸法となることを意図しています。

長手側の壁面は恣意性を極力抑えることとベニア仕上げ材の分取りの合理化のため、耐力壁:開口部を1:2の910mm(柱芯々730mm)と1820mm(既製サッシサイズ1800mm+クリア10+10mm)とし、壁と開口が交互に現れる壁面としています。開口のリズムにあわせてテーブルやキッチンカウンター、階段、洗面所などの居場所を設えていきました。
敷地に高低差はないものの、西側の野のレベルが4mほど高くなっているため、東西の野の高低差をつなぐように2階の床を3枚に分けて700mmずつレベルをずらし、一番上まで行くとちょうど西側の野と同じレベルに上がるようにしました。また床のレベルをずらすことで、一体的な空間のなかで壁や建具を極力使わずに多様な居場所をつくりだしています。
それぞれの場所が異なった天井高となっているため、1階から見上げると2階スラブのずれの隙間から空が見えたり、2階から1階の様子がうかがえたり、たくさんのロフトスペースが生まれたりと各々の空間相互の関係性もうまれています。



屋根の象徴性と身体性

屋根は12寸のやや急な切妻屋根としています。
2階の段差を行き来すると妻側の三角窓から両隣の野の風景が広がったり、2階平側の軒を抑えつつ地窓を設けているために軒先が斜め下の野の方向へ視線を誘導させたりと、勾配屋根が野の気配を引き寄せています。
周囲の普遍的な2階建ての風景に接続しながら、野へと意識が広がるような身体性を伴う装置としても機能しています。



場としての建築

野と住宅地がどちらも存在し、この場所の質がゆらいでいる最中に設計者として関わったということは、とても大きなことでした。
住宅地がどんどん拡大することで浮かび上がったこの場所の固有性である「野」に接続すること、普遍的な風景に参加すること。それは、この場所がどのような変化を続けようとも受け入れ、場所そのものに住まうような、場としての建築を目指すことでした。
この場所の特殊解であると同時に、その場を超えて普遍的な建築のつくられ方に対しても批評的でありたいとも思っています。敷地を超えて場所そのものに住まうようなこの住宅のあり方が、形骸化した郊外住宅地の風景の風穴となることを期待しています。

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